2008/04/03

作家の猫と山のトムさん

101歳と年齢を考えれば驚くようなことでもないけれど、昨日の石井桃子さんの訃報にガックリ。今年1月、朝日賞を受賞された時、車いすではあったもののお元気そうだったので尚更である。

石井桃子さんと言えばクマのプーさんを日本に紹介したことで有名なのかな?しかし訳書リストを見ると、ブルーナのうさこちゃんシリーズをはじめトム・ソーヤーの冒険とかファージョンのムギと王さまとかネズビットの砂の妖精とか、え?ピーターパンやらバートンのちいさいおうちも石井さんなの?と、全然知らずに読んでいる本が多過ぎてこれまた驚きました。子どものころは翻訳者までチェックしないからなー。

翻訳書も素晴らしいものばかりですが、私の心の石井さんランキングNo.1は、なんといっても山のトムさんです。

山のトムさん (福音館創作童話シリーズ) 戦後の混乱の中、東京を離れ宮城県の山奥で馴れない自給自足の生活を始めた石井さんの実体験に基づいた、一家とネズミ対策に一緒に暮らす事になった子猫のトムさんの話。やんちゃなトムさんの成長や、ネズミ捕り道具として飼い始めた猫が次第に家族の一員となってゆく様子が優しい文章で語られています。まだ子猫のトムさんに、ネズミ捕りの訓練をさせるつもりでカエルを与えたらトムさん大喜び。いつの間にやらトムさんを喜ばすために、人間がカエル捕りの名人になっちゃったとか、病気のトムさんを家族みんなで面倒みるとことか。わかるよわかるよ!と小さなエピソードの数々にいちいち頷きながら読んでしまう、ほんとに大好きな本です。

って、今amazon見たら絶版状態じゃん。ビックリ。これ切らしちゃダメでしょ福音館! と思ったら石井桃子集 (2)に山のトムさんと、当時の事を書いたのかな?と思われるやまのこどもたちも収められているみたいです。やまのたけちゃん やまのこどもたちは岩波こどもの本で復刊すると聞き、近所の本屋に予約して購入したんだった。トムさん同様、素朴な深沢紅子さんの挿絵がまたかわいくて。戦後の貧しい時代ながらも明るくたくましく生きる人たちの姿に、衣食住に困ってるわけでもない私が勇気づけられるのもなんか申し訳ない気がするよ。と思いながら読んだのを覚えています。

「朝日賞をいただいた人間ですといってこの世を去るよりも、六つ七つの星に美しく頭の上を飾られて次の世の中に行きたいと思っています」という、朝日賞受賞時の石井さんの言葉、天声人語で紹介されているのを切り抜いて手帳に貼ってありました。

作家の猫 (コロナ・ブックス) トムさんからトラちゃんへ。こちらの表紙は中島らも宅のトラちゃん。雑誌CREAの「トラちゃん的日常」に連載されていたので、トラちゃんと暮らすようになったいきさつなどはすっかり把握している私ですが、トラちゃんいつの間にか中島さんより事務所の大家さんに懐いちゃったんじゃなかったっけか。なにしろしこの作家の猫という本、異様に濃いです。南方熊楠、寺田寅彦、谷崎潤一郎、藤田嗣治、内田百間、室生犀星、木村荘八、三島由紀夫、池波正太郎、三島由紀夫に開高健などなど、ただでさえ濃ゆ〜いラインナップで、しかもみんなそろって猫バカとくりゃ、猫好きにとってどれだけ充実した本かお分かりでしょう。どっから集めたの?ってくらい写真も豊富で何度も何度も何度も読み返しています。

しかも写真がやたらいいんですよ。ふんどし一丁で執筆中の稲垣足穂の部屋を猫が走り回っているとこ(シャッタースピード追いついてない)とか、室生犀星と一緒に前足をかけて、うとうとしながら火鉢にあたる猫とか。百間先生のノラの話は有名だけど、ノラ失踪時に近所に配り続けたチラシ、近所の小学生向けに新仮名づかい&読みやすい丸い文字で書いたチラシなんかの写真もありました。あと、文豪だけあって猫の名前がかなり個性的。ジイノ、カロチョロ、メック、ブキ、ピピ、カロなどなど。そんな中、別に黒くもないのに何故かクロという名の猫もいたりして(幸田文宅)。なにしろ読みどころ満載で、この類いの本ではNo.1と言っても過言じゃないと思う。続編作ってほしいっす。

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